「ふん、ふんふんふ~~ん♪」
楽しげに鼻歌を口ずさみながら、次々とカゴへキノコを投げ込んでいくみつな。
やはり、かさねやとうかとは年季が違うのか、まったく迷うことなく食べられるキノコを選定していく。
まるで、ソレ専用に作られた機械のようだ。
「ふんふふ―――」
「…………っ……」
「…………あら?」
風に煽られた木々のざわめきの中、かすかに声らしき何かが耳に届く。
「動物……?」
この山に、大型の獣がいるなどとは聞いたことがない。
狼もこの辺りには生息していないため、可能性としては野良猫、あるいはウサギが良い所だろう。
「猪……だったら、猪鍋もいいわね」
みつなの中の、何かの血が騒いでいるのだろうか。
普段は誰も目にすることの無い、ワクワクした様子で静かにカゴを置く。
「っ…………っ、っ……」
「あっちね」
そして、脇差しよりもずっと小さいシャベルを握り直し、足音に気を遣いながら声のする方へ近づいていく。
一歩、二歩、三歩……五歩、十歩、二十歩。
まるで忍者のような足取りで、獣との距離を詰めると。
「んにゃ…………ん、にゃぁ~……」
「…………猫?」
そこに来て、ようやく気付く。
声の主は、聞いている方が寂しくなるような、とてもとてもか細い声で鳴いているようだ。
「怪我でもしたのかしら……」
仲間同士でケンカでもしたのかもしれない。
そうして、動けなくなった猫が周囲に助けを呼んでいるのでは……?
みつなの頭の中では、一瞬にしてそんな推測が組み立てられていた。
「にゃあぁ~~……」
「どうしましょう……」
それが自然の摂理とはいえ、もし手負いの猫なのであれば、助けてあげたい。
しかし、ソレがおいそれと出来ないことも、みつなは理解していた。
家猫であれば問題ないだろうが、野良の場合、自分を確認したら逃げだそうとするかもしれない。
動かずに鳴いていることを考えると、恐らく手足の怪我だ。
その状態で強い警戒心を与えてしまうと、ムリにでも走るだろう。
もしそれで、怪我を悪化させてしまったら。
もし、取り返しの付かない状態にしてしまったら。
……そう考えると、すぐ助けに行くのも気が引けてしまっていた。
「んにゃぁ……にゃああぁ~~……」
「う、ううぅ……」
しかしそのか細い鳴き声は、こうしている間にも、消え入りそうなほどに弱々しくなっている。
決断をするのであれば、早く決めなくてはいけない。
この鳴き声が途絶えてしまったら、それは恐らく命の炎も消えてしまったことになるだろう。
そんな最悪の事態を避けるためにも、みつなは猫の元へ行くか、いっそ聞かなかったことにでもするか、いずれにしろ次の行動を決める必要があるのだ。
「わ……わたくし、どうすれば……!」
いくらみつなでも、自然の動物を相手にして、これ以上間合いを詰めてしまったら存在を気取られてしまう。
そのせいで、姿を確認して怪我の度合いを確認することはできない。
そんな事実が、更にみつなの頭を悩ませていた。
「うううぅ……!!」
「んん………………ん、にゃ…………ぁ……」
鳴き疲れてしまったか、体力が尽きたか。
とうとう、声が消えそうになる。
もうこれ以上、悩むことはできない。
そう思った瞬間―――
「っ!!」
考えるよりも先に、みつなは声のする方へと走り出していた。
仮に人なつっこかったとしても、それが警戒心を与えてしまう行動だとわかっているのに。
そして、声の主の元へ勢いよく駆けつけたみつなが、焦った様子で声を掛ける。
「どうしたのっ!? どこが―――」
しかし、その様子を確認したみつなは。
「…………へ?」
実に素っ頓狂な声を、口から漏らしてしまうのだった。