「あかん、身体めっちゃ重いわ」
「はぁ、そうですか」
前触れもなく、唐突に部屋を訪ねてきたとうかに、かさねは本から顔を上げて答える。
「なんやの? その気のない返事はー」
「そう言われましても。その、身体が重いって言う、報告……? に、来たんじゃないんですか?」
「せやねん。めっちゃ重いねん。具体的には腹筋しよーおもても、おなかプルップルして起き上がれへんねん。なんでやと思う?」
「はぁ、それはまぁ……毎日、食っちゃ寝してますからね」
「あー、言われてみれば、食っちゃ寝しまくってるなぁ」
「むしろ、なんで今まで重くならなかったのかが、わたしには不思議ですけど……」
「いやー、太ってる自覚はあんねんで?」
「知ってます。この前、おなかを触ったじゃないですか」
「せやったっけ? 乙女のおなかを楽しむやなんて……えっちぃなぁ、かさちーは」
「とーかちゃんから触らせてきたんですっ!」
「まぁまぁ、過去は振り返ったところで、なんにもならへんよー」
「なんで、とうかちゃんから振ってきた話題で、わたしがたしなめられなきゃならないんですか……?」
とは言え、その棚上げ論法がとうかの得意とするところなため、文句を言ったところでいまさらどうとなるモノでもない。
「それで? 重いから、どうしたんですか?」
「山いこー」
「はぁ、山ですか。………………山?」
予想もしないことを言うのも、とうかの得意とするところではあるものの。
余りにも突飛な発言に、かさねは時間を掛けた聞き返しをしてしまう。
「ほら、山歩きは運動になるやろ? 運動になるー言うことは、痩せて軽くなるやろ? みんな幸せやん」
「そうですね、とうかちゃんにはちょうど良いですね」
「だから一緒にいこー」
「…………どうしてですか?」
「そんなん、うち1人で行ってもおもろないからに決まってるやろ。あと、寂し過ぎて山着く前に帰ってきてまうし」
「心、弱すぎますよとーかちゃん!?」
「あはは、照れるわー。それがうちの魅力やからな?」
「魅力どころか、ただのメンドくさい人ですよソレ!」
「じゃー、メンドくさくならんよーになるためにも、一緒にいこー。あとおべんと作ってー」
「サラッと注文増えてますけど!?」
もちろん、このさりげなくもあからさまな頼み事をするのも、とうかの得以下略。
「じゃ、1時間後なー。うち、山登りの準備進めておくから。おべんとーよろしゅー」
「えっ? ちょ、と、とーかちゃん、本気なんですか!? とーかちゃーんっ!?」
けれど、とうかはそれに答えることなく部屋を去って行く。
「お弁当って言われても、どうすれば…………おにぎりに、卵焼き。あとは~……うぅ、ど、どーしよぉっ」
そして結局かさねは、まんまととうかの言うことを聞いてしまうのであった。