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2016/04/06

静かな誓い

「2人ともー……って、なにしてるのかしら?」
「あ、みつねぇ」
「み、みつなさん……」

朝食の後、まだ冷たい空気が残る時間。
かさねの部屋にいるらしい、仲良し組を訪ねてみつなが足を運んだのだが。

「ええと……とかちゃんは、かさねちゃんのお腹を食べるの?」
「違いますよぉっ! これは、その……え、ええと」
「かさちーが太ったー、ゆーてな。ドレドレお姉さんが確かめたるわー、なって」
「服の上からって言ったじゃないですかぁ! なのに、直接触らないとわからないって言い出して……ううぅ」
「やー、別に太ってへん思うけどなぁ。多分コレなら、うちの方が触り心地えーやろうし。ほらっ」
「わ、わわわっ! と、とうかちゃん、みつなさんの前だからってそんな、衿の間からなんてっ……!」
「えーからえーから。な、どや?」
「……あ。プニプニで、気持ち良いかも」
「せやろせやろー。うちに比べたら、かさちーのお腹なんかまだまだ育ち盛りやで?」
「これ以上、育てるつもりないんですけど!?」
「えー? もったいないなぁ……このまま行けば、立派なブタちーになれるで?」
「なりたくありませんっ!」
「………………ええと?」

イチャイチャする2人を前に、完全に置いてけぼりを食らっているみつなが、いつ口を挟めばいいのか悩みながらもポソリと言葉を発すると。

「あっ……す、すみませんみつなさんっ! だからコレは別に、変なことをしていたとかじゃなくてですね―――」
「みつねぇも、うちの順調に育ってるお腹、さわってみー?」
「あら、いいの?」
「とうかちゃん、なんでそんなことを提案して……って、え!? 触るんですか!?」
「だって、2人とも楽しそうなんだもの。お姉ちゃん、嫉妬しちゃうわ」
「女の嫉妬は怖いらしいで? うちがどこぞの誰かから聞いた、役立つ豆知識や。覚えておくとえーよ」
「うろ覚え過ぎて、全然説得力ありません……それになんで他人事なんですか。とうかちゃんもわたしも、一応女ですよ」
「あはは、せやねー。うちら、ちんちん生えてへんもんなー」
「ちっ……!?」
「わからないわよ? ある日突然、ニョキッて生えてくる可能性もあるんじゃないかしら」
「ありませんよ!? キノコじゃないんですからっ!」
「うわー……かさちー、その例えはちょっと下品すぎるんやない?」
「ふふ、生えることと形状を掛けるだなんて、なかなかやるわねかさねちゃん」
「うぅ……言い出したのはとうかちゃんなのに、なんでわたしが引かれてるんでしょう……」

そんなかさねの反応にクスクスと笑いながら、みつなはとうかの衿に手を入れて、お腹の感触を確かめる。

「……あら?」
「ほらほら、どや? うちのお腹、なかなかのモンやろ」
「……………………」
「? どうしたんですか、みつなさん。そんな真剣な顔しちゃって」
「……え? あ、い、いえ、その……な、なんでもないわよ? ほほほほ」

明らかに何かあったような反応をしながら、とうかのお腹から手を抜き取るみつな。

「お姉ちゃん、ちょっと用事思い出したから出てくるわね。お昼は、2人で適当に食べてくれるかしら?」
「え……? は、はい、わかりました」
「なんやわからんけど、気ーつけてなー」
「ええ、ありがと。夕方前には帰るわね」

少し焦った様子のみつなが2人にそう告げると、パタパタと部屋から出て行ってしまった。

「……どないしたんやろな、みつねぇ」
「そうですね……わたしの部屋に来た理由も、結局なんだったんでしょう?」

着崩れた着物で向かい合ったまま、とうかもかさねも首を傾げるばかりだった。

***

「お夕飯に食べたいものなんて、聞いている場合じゃないわね……」

外に出たみつなは、着物の衿からおそるおそる手を差し込む。

「………………うぅ」

プヨンプヨンと返ってくるソレは、とうかを更に上回る感触だ。
みつなの顔には絶望の色が少し浮かんでいる上に、若干涙まで浮かべている。

「ぐすっ、最近ご飯がおいしかったけど。育ってきていることもなんとなくわかっていたけど。とかちゃんのを触って、ようやく気づけるだなんて……」

『油断していた』
そんなひと言で片付けられない程度には、良い仕上がりになっている。

「ううん。くよくよしてちゃダメよ、みつな。とりあえず、山までの往復を毎日すれば、少しは利くはずだわ。他に……うん、そうね。今晩からオカズを一品減らしましょう」

いっそ、本当にお腹の肉を食べてもらえれば楽なのに……と考えつつ、みつなは山へ向かって歩き出す。

「よーし、頑張るわよっ」

しかし、彼女はまだ知らない。かさねが張り切り過ぎた結果、大量に余らせたお昼ご飯が夕食にも追加で出てくると言う悲劇を。
そして、毎日続けることを誓ったこの運動は、三日後に降る大雨を切っ掛けに、なんとなく中断してしまうと言う未来を。

「目指せ、ぺったんおなかっ」

……彼女は、まだ知らないのだ。