2016/12/17

秋の味覚、大しゅーかく(みつな編) 弐

「ふん、ふんふんふ~~ん♪」

楽しげに鼻歌を口ずさみながら、次々とカゴへキノコを投げ込んでいくみつな。
やはり、かさねやとうかとは年季が違うのか、まったく迷うことなく食べられるキノコを選定していく。
まるで、ソレ専用に作られた機械のようだ。

「ふんふふ―――」
「…………っ……」
「…………あら?」

風に煽られた木々のざわめきの中、かすかに声らしき何かが耳に届く。

「動物……?」

この山に、大型の獣がいるなどとは聞いたことがない。
狼もこの辺りには生息していないため、可能性としては野良猫、あるいはウサギが良い所だろう。

「猪……だったら、猪鍋もいいわね」

みつなの中の、何かの血が騒いでいるのだろうか。
普段は誰も目にすることの無い、ワクワクした様子で静かにカゴを置く。

「っ…………っ、っ……」
「あっちね」

そして、脇差しよりもずっと小さいシャベルを握り直し、足音に気を遣いながら声のする方へ近づいていく。
一歩、二歩、三歩……五歩、十歩、二十歩。
まるで忍者のような足取りで、獣との距離を詰めると。

「んにゃ…………ん、にゃぁ~……」
「…………猫?」

そこに来て、ようやく気付く。
声の主は、聞いている方が寂しくなるような、とてもとてもか細い声で鳴いているようだ。

「怪我でもしたのかしら……」

仲間同士でケンカでもしたのかもしれない。
そうして、動けなくなった猫が周囲に助けを呼んでいるのでは……?
みつなの頭の中では、一瞬にしてそんな推測が組み立てられていた。

「にゃあぁ~~……」
「どうしましょう……」

それが自然の摂理とはいえ、もし手負いの猫なのであれば、助けてあげたい。
しかし、ソレがおいそれと出来ないことも、みつなは理解していた。
家猫であれば問題ないだろうが、野良の場合、自分を確認したら逃げだそうとするかもしれない。
動かずに鳴いていることを考えると、恐らく手足の怪我だ。
その状態で強い警戒心を与えてしまうと、ムリにでも走るだろう。
もしそれで、怪我を悪化させてしまったら。
もし、取り返しの付かない状態にしてしまったら。
……そう考えると、すぐ助けに行くのも気が引けてしまっていた。

「んにゃぁ……にゃああぁ~~……」
「う、ううぅ……」

しかしそのか細い鳴き声は、こうしている間にも、消え入りそうなほどに弱々しくなっている。
決断をするのであれば、早く決めなくてはいけない。
この鳴き声が途絶えてしまったら、それは恐らく命の炎も消えてしまったことになるだろう。
そんな最悪の事態を避けるためにも、みつなは猫の元へ行くか、いっそ聞かなかったことにでもするか、いずれにしろ次の行動を決める必要があるのだ。

「わ……わたくし、どうすれば……!」

いくらみつなでも、自然の動物を相手にして、これ以上間合いを詰めてしまったら存在を気取られてしまう。
そのせいで、姿を確認して怪我の度合いを確認することはできない。
そんな事実が、更にみつなの頭を悩ませていた。

「うううぅ……!!」
「んん………………ん、にゃ…………ぁ……」

鳴き疲れてしまったか、体力が尽きたか。
とうとう、声が消えそうになる。
もうこれ以上、悩むことはできない。
そう思った瞬間―――

「っ!!」

考えるよりも先に、みつなは声のする方へと走り出していた。
仮に人なつっこかったとしても、それが警戒心を与えてしまう行動だとわかっているのに。
そして、声の主の元へ勢いよく駆けつけたみつなが、焦った様子で声を掛ける。

「どうしたのっ!? どこが―――」

しかし、その様子を確認したみつなは。

「…………へ?」

実に素っ頓狂な声を、口から漏らしてしまうのだった。
2016/12/07

ふうり、頒布開始のお知らせ

こんにちは、ネモン℃の芳松です。
DLsiteさんでは昨日より、DMMさんでは本日より、ネモン℃第4作目『たまゆらの宿 ふうり』が頒布開始となりました。

DLsiteさんの頒布ページはこちら

DMMさんの頒布ページはこちら

よろしければ、チェックしてみてくださいませ。


それと、宣伝告知用にツイッターを始めてみました。
こちらです。

今作でも、また当ブログのメールフォーム等にてご意見・ご感想を頂けましたら幸いです。
それでは今後とも、ネモン℃および、たまゆらの宿シリーズをよろしくお願いいたします。
2016/12/06

秋の味覚、大しゅーかく(みつな編) 壱

キノコ狩りの悲劇から数日後。
この日は、朝から宿の中がバタバタとしていた。

「かさねちゃん、お部屋はお掃除できた?」
「ま、まだちょっと掛かります」
「そう、わかったわ。とかちゃんは?」
「おしっこに行くって言ったっきり帰ってきませんっ」
「……後でお仕置きね」

―――訂正。
正確には、みつなとかさねだけが、忙しなく動いていた。

「片付けは終わったので、あとはゴミ捨てをしてから、掃いて雑巾がけをすれば終わるんですけど……もう時間ですよね?」
「お昼過ぎって言ってたから、まだもうちょっと大丈夫だと思うわ。かさねちゃんはソッチをよろしくね」
「わかりましたっ」
「あっ。あと、とかちゃんを見つけたら、10分くすぐりの刑に処すこと。いい?」
「は、はい……」

『くすぐりの刑』という名前自体は非常にバカバカしくて、ともすればほのぼのとした印象があるが、決して舐めてはいけない。
3分ほど続ければ、全力疾走した後のように呼吸が困難になる、非常に大変な運動なのだ。
しかもそれを、10分も。
みつなの静かな怒りを前に、かさねの背筋を冷たい汗が伝っていった。

「さて……それじゃ、お姉ちゃんはお夕飯の材料を用意してくるわ」
「あ、さっきトミさんが人参と長ネギ、あと白菜を置いていってくださって」
「あらあら、そうなの?」

トミさんとは、ウメさんと同じく、たまゆらの宿の割と近所に住む中年の女性だ。
よく、畑で取れすぎた作物を分けに来てくれるので、こういったことがこれまでも度々あった。

「……って、頂いておいてなんだけれど。この時期に白菜だなんて、珍しい取り合わせね?」
「はい、わたしも驚いたんですが……山向こうに妹さんが住んでるらしくて、そこでは今が旬みたいなんです」

山向こうの集落といえば、この辺りよりもずっと高地になっている関係上、距離としては遠くないのだが、ずいぶんと環境が違うらしい。

「あぁ、あそこは涼しいからね。けど、もう白菜が取れるなんて知らなかったわ」
「お勝手に置いておいたんですけど、使いますか? いらないなら、しまっちゃいますけど」
「ん~、そうねぇ…………あっ、いいわ。そのまま置いておいて」

人参、長ネギ、白菜。
それと、大根が少し残っているはずだ。
これらの組合わせにピンと来たみつなは、かさねに言付ける。

「今夜は4人になるんだし、鍋にしましょ」
「え、鍋……ですか?」

その言葉に、この間の惨劇がかさねの頭を過ぎる。

「だいじょーぶよ、今日はお姉ちゃんが用意するんだから」
「う……ご、ごめんなさい」

例の失態を思い出して、つい謝罪の言葉が口を出てしまう。

「ふふっ、アレはアレで一通り笑えたから許すけど。今夜ばかりはああなるわけにはいかないものね」
「はい……初対面であんなご飯出されたら、すぐ帰りたくなっちゃいます……」
「同感だわ」

喋りながら、出かける準備を整えたみつなは、玄関へ向けて歩き出す。
それを見送るため、かさねも一緒に向かう。

「あ、それでかさねちゃん。もしお姉ちゃんが出ている間に来られたら、お相手してあげてね」
「わ、わかりました……けど、わたしで大丈夫でしょうか?」
「くすっ、安心するといいわ。さくちゃんの手紙には、『頭がおかしいからかさねと仲良くなれるはず』って書いてあったし」
「えぇっ! ど、どういうことですか、それ……遠回しにわたしもおかしいって言ってませんか……?」
「ふふっ、そんなことないと思うわよ」

みつなのその言葉に、嘘はなかった。
なぜなら、とうかも間違いなくおかしい方に分類されるというのに、そんな彼女と仲良くできるかさねには、得体の知れない適性があると考えられるからだ。

「それじゃ、行ってくるわね。多分1~2時間で帰るわ」
「はい、わかりました。行ってらっしゃい、みつなさん」

そしてみつなは、かさねに手を振りながら宿を後にした。

「さぁて、と……」

玄関前に置きっ放しになっているカゴを手に取り、その中にシャベルがあることを確認すると、おもむろに背負って歩き出す。
それは、先日の2人が山へ向かうために辿った道と、そっくり同じだった。

「やっぱり、お姉ちゃんが仇をとらなきゃ……よねっ」

そんなみつなの瞳には、静かに燃え上がる炎が宿っていた。
2016/12/05

第4作目『ふうり』のご紹介

またもやご無沙汰となってしまいました、ネモン℃の芳松です。

11月中に……と書かせて頂いた新作ですが、ようやく昨晩になって完成いたしました。
お待ち頂いた皆様には申し訳ございません。
DLsiteさん、およびDMMさんでは既に審査中なので、何も問題がなければ数日中に頒布開始されるかと思います。

さて、では新作のご紹介を……。
こちらが扉イラストです。



ふうり、という女の子が初登場となります。
本来でしたら、こちらのサイトのストーリーで出してからと考えていたのですが、音声作品が先に出来上がってしまいました。
一見クールそうな感じがするものの、しゃべり始めるとまったくそんなことはないという、東北なまりの抜けない子です。

声に関しては、歩サラさんに当てて頂きました。
演技っぽさの少ない、非常に自然で独特な演じられ方をする声優さんです。
デフォルメを余りしない、本作のような作品にはまさにうってつけで、とてもハマる演技をしていただきました。
もちろん、歩サラさんの喋る本場の秋田弁も、ご堪能頂ける内容になっております。

そしてイラストはいつもの通り、吉宗さんに描いて頂きました。
今回の絵は背景で非常に苦労を掛けてしまいましたが、その甲斐あってとても素晴らしい出来になっております。
ぜひ皆様、製品に同梱されている壁紙では、ふうりだけでなく背景もお楽しみくださいませ。


また、今作では、とうかの時と同様にハイレゾ音源を同梱いたしました。
前回よりもビットレートを上げて、96khz/24bitとなっております。
その為、圧縮時で1.8GB、解凍時には3GBとなってしまいました。
ストレージ容量の少ない方はご注意くださいませ。

それと、今回から新しくなった点として、SEの編集手法を一新いたしました。
そのため、今までと全体の聞こえ方に多少の変化があるかもしれません。
また、様々な面で多用している衣擦れの音も、素材利用から全て録りおろしに変更したため、細かなバリエーションが出るようになった……と、思います。


では、頒布が始まりましたらまたご報告させて頂きますので、もうしばらくお待ちくださいませ。

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追記:
 Youtubeに試聴版をアップいたしました。



 同じく、DLsiteさんのchobitの方にも上がりました。
 そちらでは、今までの動画と違い、トラックごとにファイル分けした音声ファイルでのアップにしてみました。



 是非とも、本作の雰囲気を感じ取って頂ければと思います。