「ふーんふふーんふふー♪」
のどかな田舎道を、荷物片手に上機嫌で歩くかさね。
「えへへ。今日は、いいお茶が買えたなぁ。後で飲むのが楽しみっ」
愛おしそうに、荷物を抱える。
その腕の中には、普段はなかなか手の出ない、高めのお茶っ葉があった。
どうやら安売りされていたらしく、迷った末に買って来たらしい。
「みんなにも飲んでもらって、感想聞こっと」
宿……いや、主にとうかが大変なことになっているとも知らず、かさねは軽い足取りで歩みを続けるのだった。
***
「……あかん。ぜんぜんない」
色々とひっくり返し、探し回った結果。緑色したお茶の葉は、一杯分さえも出てこなかった。
「のっぴきならんって、こういうことやな……」
かさねが切らしそうだったソレを買いに行っているのだから、のっぴきならないのも当然である。
「とかちゃん? お茶はまだ……って、え? ど、どうしたのこれ!?」
「うぅ……み、みつねぇ……!」
様子を見に来たみつなを見て、とうかは気が緩んで涙目になる。
「えっ!? ちょ、と、とかちゃん、泣いて……? 何があったの!?」
「へぐっ……あ、あんな。あんなぁ……?」
嗚咽が漏れそうになるのをこらえ、みつなに説明することにする。
「ううぅ……」
急須と湯飲みを指差すとうか。
「うん、お茶を淹れようとしたのよね? それが?」
「あうぅ……」
お茶っ葉をいれ、お湯を注ぐ動作をする。
「はい、湯のみにお茶が入りました。それで完成じゃないの?」
「うぅ……んぐっ」
「ふんふん、なるほど……吐くほど渋かった?」
涙目のままコクコク、とうなずくとうか。
「それで……お茶っ葉を捨てて? 淹れ直そうとしたら?」
「うぐぅ」
「……何も入ってないわね」
空っぽの缶の底を、みつなに見せる。
「はううぅ……う、うち、どないしよぉ。お茶淹れ失格の罪で、切腹か?」
「落ち着いて、とかちゃん。罪の割には罰が重すぎるわ。それにウメさんは、血液を好んで飲まないわよ」
「せやけど、せやけどぉ……!」
「ふぅ……そうよね。このままじゃ、お客様に申し訳ないわ。切腹はしないで良いけど、わたくしと一緒に腹をくくりましょう」
そう言うみつなの顔には、覚悟の色が浮かんでいた。
***
「ただいま戻りまし……って、あれ? お客さま?」
宿に戻ったかさねが玄関で目にしたのは、どこか見覚えのある使い古した履き物だった。
「ウメさんかな……? あ、ちょーどよかったっ。ウメさんにもお茶の感想を頂いてみよっと」
いい実験台を見つけたかさねは、まずは挨拶をしようと居間へ向かう。
すると、開いた襖からよく知るお婆さんが見えた。
「あ、やっぱり……いらっしゃいませ、ウメさ―――」
と、挨拶をしようとした瞬間。
「……白湯(さゆ)ですが」
「ごめんなさいぃ……」
なぜか、ウメさんに土下座しながら、お湯を差し出す2人の姿があった。
(了)