「あかん、うちはここまでや。無念」
「まだ5分しか歩いてませんよ」
宿を出た2人は、鳥たちの鳴き声に送られながら山を目指していた……の、だが。
「山、遠すぎやで……向こうから近寄ってくれへんかな?」
「そこまでだらけてるから、身体が重くなるんじゃ……」
「もう、ずいぶん長いこと歩いてる気ーするわ。そろそろお昼ご飯やない?」
「だから、まだ5分しか経ってませんっ」
文句を言う割には足取りに疲れは見えず、スタスタと2人は歩いて行く。
なんだかんだ、外で遊び回ることもあるせいか、体力はそれなりにあるようだ。
「なーなー、おべんとーの中身、なに入れてくれたん?」
「はぁ、もう……ナイショです。いま言っちゃったら、後の楽しみがなくなっちゃいますから」
「えーやんえーやん。ちょっとくらい知ってた方が、やる気に繋がるかもしれへんで?」
「むぅ……それは確かに」
顎に手を当て、納得する様子を見せるかさね。
「では、そうですね……ふたつだけ、中身を教えましょう」
「おー、待ってましたーっ」
パチパチと手を叩いて、かさねをはやし立てるとうか。
「まず、ひとつめですが」
かさねなりの演出だろうか、そこで言葉を句切り、溜めを作る。
「ゴクリ…………」
それにまんまとハマったとうかは、唾を飲んでかさねの続く言葉を待っていた。
「………………ご飯です」
「ふつーやん!!」
珍しく、神妙な顔でボケたかさねに、鋭いツッコミを入れるとうか。
「それ、おべんとーに大体入れるヤツやん! むしろ入らないことないヤツやん!!」
「ふふん。慌てないでください、とーかちゃん」
「慌てないでって…………ハッ!? ま、まさかっ!」
「そう、言ったでしょう? わたしは『ふたつ』教えるって」
「おぉ……と、ゆーことは……!」
ご飯、と来たから、恐らくはそれにもの凄く合うオカズを教えてくれるのだろう。
ふたつめへの期待値が、とうかの中でグンッと上昇する。
「ふたつめ、ですが……」
「ゴクッ…………!」
そして、また先ほどと同じく、もったいぶって溜めを作るかさね。
そんな様子に、とうかも再び生唾を飲み込む。
「……………………」
「は、はよ。ふたつめは?」
「ふたつめは…………」
すぅっと息を吸い込んだかさねが、ハッキリと口にする。
「まぜご飯です」
「昨日の残りやん!!」
「山の幸がふんだんに入ってます」
「知ってるわ! 夕べ食うたし!」
「みつばを追加しましたよ?」
「ほぼ変わらんやん! ほんの少しシャキッとするだけやん!」
余りのズッコケ振りに、とうかはダルさも忘れて全力でツッコミを入れる。
「お気に召しませんでした?」
「召す召さへんの前に、まぜご飯で白ご飯は食えへんやろっ!」
「あはは、なにを言ってるんですかとーかちゃん。他にもオカズが入ってるに決まっているじゃないですかー」
「じゃあ、なんでソッチ言わへんの!?」
「ご飯が2種類もあるなんて、普段ないですから。やる気出るかなーって思ったんですけど……あれ? 出ません?」
「…………かさちー、それ本気でゆーてる?」
「? はい、わたしはとーかちゃんみたいに冗談は言いませんよ?」
「天然かいな……」
どうやら本気らしいかさねに、ガックリと肩を落とすとうか。
それとは対照的に、話している内に気分が高揚してきたのだろうか。かさねの足取りは軽い。
「あ、ほら。山への案内板ですよ。もーちょっとで登山道ですっ」
「あかん……さっきより足重くなってきたわ……」
「さぁさぁ、ここまで来たんですから行きましょうっ! たっぷり運動してから、頂上でお弁当を食べましょうねー」
「白ご飯とまぜご飯を?」
「ええ、もちろんっ」
「…………あかん」
お弁当の監修をしなかったことについて、心から後悔するとうかだった。